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頭痛:headache
頭頸部に限局する痛みの自覚症状で、日常にてよく遭遇する症候の一つである。
一般人口の30~40%が1年間に頭痛を自覚するとされている(Cephalalgia.17:15, 1997/Headache. 44:8, 2004/J.Fam.Pract. 37:135, 1993/Headache.46:954, 2006/日本頭痛学会誌.28:4, 2001)。
頭痛の原因は多様で、器質性疾患に由来しない一次性(機能性)頭痛と器質性疾患に由来する二次性(症候性)の頭痛がある。
一般外来では約60%が一次性頭痛(機能性頭痛)で、片頭痛が10%、緊張性頭痛が45%、群発頭痛が1.5%を占めている。
二次性頭痛(症候性頭痛)では軽症が多く、頭蓋内の器質性病変、髄膜炎、脳炎によるものは1.5%とされている(福井次矢.内科診断学, 第2版.医学書院:2008, pp.272-275.)。
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発熱:fever
発熱とは視床下部における体温のセットポイントが上昇することで、体温が日内変動の範囲を超えて上昇することである。
ただし、体温が上昇するという現象は、すぐに病的であるという判断にはならない。たとえば、ワクチン接種時の健常人の18~40歳の口腔温を調べた研究では、38℃台の女性も健常人として存在していることが示されている。
発熱は、感冒や自己免疫疾患などのような外因性および外因性発熱物質が関与して起こる体温の上昇である。
一方、高体温(hyperthermia)は、環境温度の上昇や、内因性の熱産生に対する熱防御反応の障害がある為に起こるもので、熱中症などが代表的な疾患である。
発熱に対しては解熱剤で治療を行うが、高体温に対しては無効で、この場合はクーリング(cooling)が重要である1)2)。
古典的な類型(稽留熱、張張熱、間欠熱)は日常診療への寄与は少ないが、麻疹の2峰性発熱と皮疹、koplik斑のような他の症状との相関によって診断が可能になることがある。また、1日に2回のピークをもつdouble quotidion feverは、成人Still病、内臓リーシュマニア症に特徴的とされる。
一方、完全に熱型が重要な疾患は、周期性をもって発熱と解熱期を繰り返すものでありマラリアや周期性発熱症候群の診断で重要となる。
周期性発熱症候群の代表例の家族性地中海熱は小児に多いが、成人での報告もまれながらある。日本では少ないとされていたが、近年、症例報告が増えており注意が必要である。典型的には、3~5日間の発熱があるが、無治療でも解熱する。これが概ね1か月に1回程度出る場合には、強く疑う必要がある。
ほかに熱の周期性が診断に役立つものとしてHodgkin病のPel-Ebstein熱(ペル.エブスタイン熱)がある。発熱期に脾腫やリンパ節が肥大していないかを確認することが重要となる。小児で問題となる周期性好中球減少症は21日ごとの発熱かを確認することが重要となる3)4)。
先に記述した成人Still病や家族性地中海熱などは、自己炎症症候群と呼ばれ(Mc Dernottらによって提唱された概念)①誘因が明らかではない炎症所見、②高力価の自己抗体や自己反応性T細胞が存在しない、③先天的な自然免疫の異常、の3項目によって定義付けられている。
かつての医学教育で、不明熱の3大原因疾患は、感染症、悪性新生物、膠原病と習ったが、不明熱第4の原因疾患として自己炎症症候群が加えられるようになっている。
発熱はプライマリ・ケア領域では最もよく出会う主訴の一つであり、頻度は6.58~7.6%を占めていたとの報告がある5)。
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【参考文献】
1) Mackowiak PA,Wasserman SS,Levine MM.A critical appraisal of 98.6 debrees
F,the upper limit of the normal body temperature,and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich.JAMA1992;268:1578-80.PMID:1302471
2) Mackowiak PA. Concepts of fever. Arch lntern Med 1998;158:1870-81.
PMID:9759682
3) Musher DM,Fainstein V, Young E,et al,Fever pattern;Their lack of clinical significance.Arch lntern Med 1979;139:1225-8. PMID:574377
4) Cunha BA.The clinical significance of fever patterns. lnfect Dis Clin North Am1996;10:33-44. PMID:8698993
5) 田中勝巳ほか、プライマリ・ケア診療所における症候及び疾患の頻度順位の同定に関する研究.日本プライマリ.ケア学会誌2007;30:343-351.

発疹:eruption
プライマリ・ケアでは、すべての来院者において、皮膚に関する健康問題を持つものが25%を占めている1)。かゆみは皮膚疾患によるものと全身性疾患に続発するものとに分類される2)。かゆみの訴えは年齢とともに頻度が増加し、睡眠や生活の質(QOL)に影響することもある3)。かゆみは皮膚疾患で起こることが多いが、全身性疾患の存在も皮膚が手がかりとなることは重要と思われる3)。
病歴では、部位と、持続時間、増悪因子と寛解因子、内服薬、外用薬、化粧品の使用歴、職業、旅行歴、入浴習慣、アトピーや悪性腫瘍の家族歴を確かめる。妊娠の可能性、糖尿病、慢性腎不全、肝障害についても聞く必要がある。
プライマリ・ケアでは、アトピー性皮膚炎にしばしば遭遇する。アレルギー疾患は同一家族内に多発することから、遺伝的素因に基づいて発症する生来の過敏症であると考えられ、この素因はアトピーと呼ばれるようになった。
現在、日本皮膚科学会のアトピー素因の定義では、(1)家族歴・既往歴(喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちのいずれかあるいは複数の疾患)、または、(2)IgE抗体を産生しやすい素因、とされている。IgE抗体は、皮膚テスト、血中特異的IgE抗体検査、血清総IgE抗体検査で確認することができる。アトピー素因に関係する遺伝子は単一の遺伝子ではなく、多くの遺伝子が関係していると考えられている4)。
アトピー素因を背景として、アレルギー疾患の中心症状が年齢によって変化することをアレルギーマーチ(allergic march)という。具体的には、乳児期に食物感作によるアトピー性皮膚炎(湿疹)、幼児期にハウスダスト(ダニ)感作による喘息、次いで青年期までにスギ花粉などへの感作によるアレルギー性鼻炎・結膜炎が出現することが典型的である。
最近では、アレルギーマーチの概念から、早期のうちからアレルギー疾患をコントロールすることの重要性が提唱されている。たとえば、乳児期のアトピー性皮膚炎による皮膚バリア障害での経皮的感作が最初のきっかけであり、アトピー性皮膚炎をコントロールすれば、その後のアレルギーマーチの進展が予防できるという仮説がある。このような仮説の立証が今後の研究に期待される5)。総合診療医(家庭医)が乳幼児から高齢者まで広い年齢層を診る立場から、アレルギーマーチの視点は重要である。
掻痒症から数年後に悪性腫瘍が出現することがあり、経過観察は重要である。掻痒症の原因がわからない時、精神的な原因による掻痒症を除外診断にあげる必要がある。心身相関の概念は、心身医学の立場から総合診療医が身につけるスキルである。うつ、不安、他の精神的な問題は、一時的な問題ではなく、皮膚疾患による2次的な問題であることもある。総合診療医として、適切な時期に精神的な問題を評価することも忘れてはならない。
PDF「発疹のアプローチ」
【参考文献】
1) 炎症性皮膚疾患(発疹).10分間診断マニュアル,メディカルサイエンスインターナショナル,2004.
2) Pruritus.UpToDate 18.3
3) Moses,S.:Pruritus.Am Fam Physician.2003,val.68,no.6,p.1135-1142
4) 古江増隆、佐伯秀久、古川福実ほか.アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌2009;119:1515-34
5) Dharmage SC,Lowe AJ,Matheson Mc,et al.Atopic dermatitis and the atopic march revisited.Allergy 2014;69:17-27.PMID:24117677

失神:syncope
失神とは、脳の全体的な血流低下による急性発症で、短時間の、自然に完全回復する一過性の意識消失をいう1))。
予後から、心原性、脳血管疾患、起立性低血圧、薬剤性、神経調節性の順に鑑別を行うが、とくに失神の3大原因として ①心血管性失神,②起立性失神(出血,脱水),③血管迷走神経性失神は重要である。失神の約4割は検査にかかわらず原因不明である2)。
失神は年間0.6%で見られる病態で、特に高齢者に多い3)。救急外来受診の1~5%、緊急入院患者の1~6%は失神患者である3)。失神患者の約1/4で外傷が合併し、また、約1/4は再発する2)。
前駆症状のない失神や坐位または臥位発症の失神は、まず心血管性失神から疑ってかかる必要がある。心電図で心房細動や脚ブロックをみたら、失神の原因が致死性不整脈であった可能性が大きい。高齢者の失神では、安易に血管迷走神経反射とみなすことは厳に慎むべきである。
出血を疑った場合は、便の色、潰瘍や食道静脈瘤の既住、生理などを聞き落とさないようにする。
TIA(一過性脳虚血発作:Transient Ischemic Attacks)を失神の鑑別に上げてもいいが、順番は一番末席である。神経欠落症状のない一過性の意識消失だけではTIAとは考えない。意識消失するには、ⓐ両側の大脳の障害、ⓑ上行網様体(脳幹)、のどちらかの機序が働かなければならない。つまり、高度脳圧亢進を伴わないかぎり、大脳の片側のみの病変では意識はなくならない。日本では意識障害の2/3は脳血管障害に起因するので、意識障害に対してすぐ原因を脳に求めることが多いが、ⓐの機序で意識を失うほどの病変が一過性で治ってしまうことは理論上のみのことで、実際にはあり得ない。
ⓑの機序、脳底椎骨動脈領域のTIAなら一過性の意識障害を来しうるが、失神の原因としてTIAの占める割合はまれである。
TIAの失神の場合、意識消失時間が比較的長いこと、脳底椎骨動脈領域系の神経局在症状(めまい、失調、感覚・運動障害、複視、構音障害など)が意識消失の前または後に出現することが特徴であり、それがない場合にTIAと診断するには無理がある。
特筆すべきは、心筋梗塞や不整脈など心臓に起因する失神を見のがした場合、1年後の死亡率は21~30%と高く、むしろ失神を見た場合、予後に大きく影響を与える疾患を見のがしてはならない。予後の面からもTIAは最後に考えればよい4)。
プライマリ・ケア医としての失神に対するマネジメントとして、それぞれの疾患について、画像評価や入院の適応を含めて専門医への対診が望ましい。
専門医につなぐまでに失神が再発する可能性が高い場合は、自動車運転を禁止する、駅のホームの線路際を避ける、42℃以上の高温入浴を避けるといった、患者背景を勘案した生活指導が求められる5)。
PDF「失神のアプローチ」
【参考文献】
1) Eur Heart J.30:2631,2009
2) Soteriades ES,et al.Incidence and prognosis of syncope.N Engl J Med 2002;347:878-885.
3) 上岡剛士.ジェネラリストのため内科診断リファレンス. 医学書院;2014,pp.20-29.
4) 箕輪良行,林寛之.救急総合診療Basic20問.医学書院;2000,pp.10-21.
5) 長哲太郎,コモンディジーズ診療指針.中山書店;2016,pp.26-29.



めまい:vertigo,dizziness
「めまい」は、空間位置関係がわからなくなる感覚のことであり、平衡感覚を不安定に感じたり、頭の中では体が動いているように感じてしまうといった特徴がある。
“vertigo”を回転性めまい、“dizziness”を浮腫性めまいと対応されることが多いが、両者は厳密には区別されない。
米国の疫学データ1)によると、良性発作性めまいは、64/10万人年であり、10歳ごとに38%ずつ発生が増える。また診断された平均年齢は51歳である。
めまいの一生涯の有病率は成人で23%であり、60歳以上に限っては34%である。
「めまい」を主訴に患者が来院した場合、まず最初に行うことは“vertigo”と“lightheadedness”あるいは“presyncope”との鑑別である。正確な原因究明のためには、日本語で一括りに「めまい」と総称されるこれらの主訴を、その症状からさらに細かく色分けする必要がある。
そのためには、患者の症状を細かく聴取することが、まず何よりも重要である。患者が「部屋がぐるぐる回っているような」と訴えた場合、これは通常“vertigo”であり、前庭器官の障害であることが多い。ただし、「回転性めまい」を訴えないからといって前庭疾患を除外はできない。またその一方で、血管迷走神経反射や循環器障害からくる(たとえば、不整脈性の)めまいであっても、回転性と認識されることもあり、注意が必要である。
「めまい」を、英語における“vertigo”に限定した際、上のようにまず鑑別すべき疾患は「末梢性前庭疾患」であり、その上位6つとして、以下の疾患が挙げられる。
(1) 良性発作性頭位めまい症, (2)Ménière病, (3)前庭神経炎, (4)両側前庭機能低下症, (5)血管神経圧迫症候群, (6)上半規管裂隙症候群,の6つである。
なお、その手前で鑑別分類すべきものに、「中枢性めまい(central vertigo)」があるが、一般に5%以下でまれである。鑑別としては、片頭痛性めまい、脳幹虚血、小脳梗塞や出血、
多発性硬化症などがある。ただし、“vertigo”の訴えの80%以上は、その原因が末梢性(peripheral)にあることは、心にとめておく必要がある2)3)。
PDF「めまいのアプローチ」
【参考文献】
1) Labuguen RH. Dizziness.Essential Evidence.(Last update Nov19,2014)
2) Strupp M, Brandt T. Peripheral vestibular disorders. Curr Opin Neural 2013,26:81-9. PMID:23254559
3) Newman-Toker DE, Dy Ej,Stanton VA,et al. How often is dizziess from primary cardiovascular disease true vertigo? A systematic review.J Gem Intern Med 2008;23:2087-94.PMID:18843523
