医療の再編成を目指して

[1]医療をめぐる環境の変化

限りある資源を効率よく 地域医療連携

 現在わが国では、世界に例を見ない速さで、高齢化が進行しており、2005年には65歳以上の高齢者人口は、全人口の約21%を占めています。このままいきますと、2013年には、高齢者人口が全人口の25%を超える「超高齢社会」に世界で初めて突入すると推定されています。ただし、私たちが暮らす、この西予地域はすでに「超高齢社会」に達しており、私たちの地域のこれからの医療を考える上で、重要なポイントであります。

(図1)は欧米諸国との高齢者人口の増加を比較したものですが、日本が突出して高齢化のスピードが速いことが分かります。

 また、とくに、団塊の世代が老いていくに従い今後20数年間の間に75歳以上の人口が約1000万人増加し現在より倍増することが推定されています。

 次に、注目すべきことは、医療機関における死亡率が一直線に伸び、昭和51~52年には医療機関で死亡する人口が50%を超えたということです。

それまでは、在宅で家族に見守られながら亡くなるのが常識の社会でした。私も子供の頃、親戚のおばあちゃん、おじいちゃんが自宅で亡くなるのをみて育ちました。昭和50年代前半頃から、死ぬ場所は病室ということが常識化して行ったのです(図2)。


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 しかも、近年では病室で亡くなる割合が全死亡の8割を超える水準となっています。

 このように社会が変わっていく中で、医学や医療技術の進歩を等しく受けたいと願うことは誰しもが思うことですが、一方で生老病死という、生あるものの一つの定めの下で老いた後の病気と死というものをどのように迎えるかということも問われているのではないでしょうか。

 さらにこの先、さきほども述べましたように、高齢者全体に占める後期高齢者の割合が増加することから、何らかの支援や介護を必要とする認知症の高齢者の数も増加の一途をたどることになります。団塊の世代が全て65歳以上の高齢期に到達する2015年頃までには、その数は250万人を超え、さらに彼らが85歳を迎える2035年頃には380万人にも達するものと見込まれています(図3)。私も団塊の世代のアンカーですから、明日はわが身、人ごととはとても思えません。

 今、予防医学の発達で、若年者(働き盛りの世代)の疾病自体は減っています。抗生物質の開発と進歩で、感染症はほぼ制圧できるようになりました(ただし、耐性菌の問題などありますが)。

 心筋梗塞、脳卒中、癌で死亡しているのはほとんどが定年後の世代であり、超高齢社会の到来とあいまって、医療のあり方、意義についてこれほどまでにパラダイム(枠組み)シフトが必要な時代はないのではないでしょうか。


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 ここまで、私たちを取り巻く環境の変化を見てきましたが、それでは私たちが働く医療や介護、福祉の状況はどう変化しているのでしょうか。

 最近、よく新聞やテレビで、産科救急の崩壊が進んでいることが取りざたされています。そういった報道の中でよく「たらい回し」という言葉を使って記事にされることをみて、憤るのは私一人でしょうか。明らかにスタッフ不足で対応できず、やむを得ず救急の受け入れを断わららずを得ないにもかかわらず、あたかもサボタージュをして断ったかの印象を与える報道は、正しく今の医療の現実を伝えていません。逆に、国民に医療不信と誤解を助長する害ある報道と言わざるを得ません。

 しかしながら、都会では産科、小児科の医師不足は深刻ですが、私たちが暮らす、地方とくに八西地区はどうでしょうか。少子高齢化の波をもろにかぶっているような私たちの住む地域では、むしろ内科医、脳外科医師の不足が深刻なのではないでしょうか。今まで、医学部卒業生はほとんどが大学に残り、希望する教室に入局し、大学にはベテランから新人まで多くの医師がいました。2004年からスタートした新臨床研修制度では、医学部卒業生は自分の希望する研修病院へ自由に行くことができるようなり、大学に新人の医師が残らなくなりました。その結果、いままで大学に医師派遣を依存していた地方の病院は大学から医師の派遣を受けることが難しくなり、現在の公立病院の医師不足を招いたのです。


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 とくに、地方では内科系、外科系なかでも内科各科、脳外科の医師不足は深刻で、ますます病院勤務医の疲弊を助長する結果になっています。また日本の病院ベッド数は、人口当たり欧米の約9倍と多く、逆に考えればその分、気軽に入院をさせていたことになります。

 このことが、ますます医療スタッフの疲弊を促進することにつながりました。かといって、新しい医師研修制度は、新人の医師に基本的な技術を獲得させる上では必要なことと思われますから、一概にもとの大学医局制度にもどせという議論にはならないと思います。

 そこで、これまでに述べてきましたが、疾病構造自体が変化してきているわけですから、そこに注目してこれからのことを考えることが大切だと思います。

 疾病構造の変化を見るとき、いくつかの問題点があります。私なりに、5項目を(図6)に挙げました。第1に、病院も診療所も一施設あたりの人員数が少なく、かつ個々の医療機関に従事者が固定されているということです。八幡浜、大洲地区でいうと、循環器科に特化した病院、消化器領域が得意な病院、脳外科医師が充実した病院、一般外科や整形外科が積極的な病院などの急性期病院が点在しています。しかしながら、行政上の問題点や各病院間の理念の差もあり統合は困難な状況です。


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 第2に「フリーアクセス」という言葉の誤解であります。フリーアクセスとは本来、「患者さんが金銭的バリア(貧困など)により受療できない事態を防ぎ、患者家計の経済力によらず、出来る限りニーズに応じて医療システムを利用できる」ことを意味していたはずです。ところがいつのまにか、「どの医療機関にも患者の選択で直接受診できる」という異なった理解を容認してしまった結果、大病院指向で3時間待ち3分診療が常態化して、急性期病院の医師の疲弊につながりました。

 第3に、慢性期医療と「終の棲家」型居住サービスが未分化の状態が続き、かつ後者の絶対数が不足しているということです。

 第4に、たびたび申してきましたが、団塊の世代の高齢者化による医療費上昇は避けて通れません。

 第5に医療に対する資本投入財源不足が挙げられます。これについては、私たちがとやかく言っても解決できるものではなく、今後の政府の政策如何にかかわっています。

 いずれにしても重要なことは、これまで一律的に、医療提供サイドで組まれてきた、医療計画を見直す時期に来ているのではないでしょうか。

 これは、平成18年改正の医療法にも盛り込まれており、これまで(従来の医療法)、地域の医療機関が担える機能に関係なく、結果として大病院を重視することとなる階層型構造を念頭に構想されてきました(図7)。


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 これは、平成18年改正の医療法にも盛り込まれており、これまで(従来の医療法)、地域の医療機関が担える機能に関係なく、結果として大病院を重視することとなる階層型構造を念頭に構想されてきました(図7)。

 新しい医療法でイメージされている医療計画は、患者さんを中心にした医療連携体制が構想されています。

 主要な事業ごとに柔軟な医療連携体制を作ることが今後求められると思います。これは、病院の規模ではなく医療機能を重視した連携であり、「医療機関で完結するサービス」から「地域で完結するサービス」、「入院から在宅まで切れ目のないサービス(seamless service)」の提供への移行であります。このことが実現できれば、現在私たちの地域の限りある医療・介護・福祉資源を有効に活用することができるのではないでしょうか(図8)。このような視点から、病診連携について述べますと、病診連携はもともと診療所と病院との間で外来の競合という問題があるにもかかわらず、相互に依存しなければ地域の医療が成り立たない関係にあります。


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 病診連携は、家庭医機能を果たす診療所の後方病院として、次の4項目の役目を担うものであります。

  1. 精密検査の依頼と、入院が必要な患者のための後方ベッドの確保。
  2. 入院患者の診療所外来・在宅への紹介(病院からの逆紹介)
  3. 各種研修会の開催と相互親睦・理解
  4. 救急患者の受け入れ

 また、診療所間での連携も促進する必要があります。いままで、あまり診療所間での連携はされていませんが、(図10)にあげた「違い」を乗り越えて、これからはプライマリヘルスケアチーム(PHCT)の形成の中核として機能することが求められる時代がそこまで来ていると考えています。現実に、イギリスではPHCTに経済的な特権も与えられています。


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[2]地域で果たす今後の家庭医の役割

(図11)は、患者さんの受療行動を調べたWhiteらの古典的な研究であります。成人1000人を1ヶ月間追いかけてみると、その間に何らかの体調不良を訴える人が750人。しかし、そのうち医療機関を訪れる人は250人にすぎませんでした。

 その他の人は、経過観察をするなり、民間療法に頼る等、いずれにしても医療機関を訪れていません。

 医療機関を訪れる人の中でも、入院を要する人は9人で、その中でも大学病院に紹介になる人は1人でした。

 日本でも同様の調査を藤内先生がしていますが、結果は同じ状況を示しています。

 また、2000年に、報告されたGreenらの研究でも同様でした。この結果から、日常的に起きている症状をいかにケアするか、医療機関にかからない人たちがどのようにセルフケアをしていくべきか、ということがプライマリケアの重要な対象になるのではないでしょうか。また家庭医の仕事の一つの領域だと考えています。


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 私は、平成8年から12年まで、佐田岬半島の中央部に位置する、現在は伊方町と合併しましたが、旧瀬戸町の国保診療所に勤務しておりました。

 ここでの、4年間は私にとって大きな転換点になりました。そこでは、保健センター、診療所が中核となって住民相互の助け合いの精神が息づいており、隣近所で介護の助け合いをするとか、独居の高齢者を昼は一人にさせないために、お茶を飲みにたずねるとか、住民の輪が自然発生的に生まれていることに、都会生活が長かった私にはとても新鮮でした。

 これはチームワークばかりではなく、ネットワーク形成、そのためには足を使ったフットワークが大切であり、北海道大学の前沢先生はこれを「ワーク3兄弟」と名づけておられます。

 また、私達のクリニックで、終末期のがん緩和ケアを含めて在宅往診で関わる患者さんから学んだことがあります(図13)。

 これまで、私たち医師が取り組んできたモデルを医療介入モデルとするならば、終末期にあるがんの患者さん、高齢の患者さんの診療にあたるとき、医療介入モデルだけでは不十分で、生活支援あるいは自立支援モデルといったものが必要であることがわかりました。


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 さらに、クリニックでは認知症ケアというような問題にも取り組んでいますが、「明日はわが身」と考えれば、そこでは人生観察モデルということの大切さを身にしみて感じています。

 これらのモデルの目標は患者さんの自己決定によってその人の人生を完結させることであり、私達が対象とするのは病気だけでなく、また日常生活動作だけでもなく、その方の生活史あるいは人生観といったものを重視した医療でなければならないと考えております。

 まさにこのことが、これからの家庭医に求められる能力ではないでしょうか。

 また、方法は、疾患の検査・治療をする、あるいは生活をアセスメントするばかりではなく、直感的に相手の問題を考える、傾聴して想像力を働かせる、そうした取り組みが大切だと思います。

 このような視点を持ちながら、もう一度私達プライマリーヘルスケアを担う医療人が、冒頭に述べました疾病構造の変化から望まれる3つの医療分野をまとめましたのが(図14)です。


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 脳・心血管障害の予防ということから生活習慣病、長寿に伴い認知症高齢者のますますの増加が推定されていますが、医療人の理解は極めて不十分であります。がんについては急性期治療が終了すれば在宅へという流れが今後ますます強化されることが予想されます。

 先ほども少し触れましたが、北欧と比べて日本の総ベッド数は約9倍近くあり、北欧では、治療を受けるために、病院の近くのホテルに長期宿泊して通院という光景もみられます。そして、ベッドを持たない診療所での経験から慢性病で急性増悪しても在宅で診療できるケースは経験上けっこう多い印象です。

 そう考えていきますと、これからは自宅が医療の場としての資源になると思います。(図17)は、仙台市内で看取りまで含めた在宅医療を実践されている診療所のネットワーク図です。在宅患者さんを中心にして、多くの医療・保健・介護職のスタッフがチームとして機能していることが伺えます。これまでのお話の中で、これからの家庭医の役割は、病気を治すのはもちろんですが、健康をつくることにも、より力を注がなければならないと思います。

 そして、病院中心よりも家族・地域を基盤にした医療を展開しなければならないのではないでしょうか。なによりも専門家が中心になる医療ではなく、市民が中心になる医療というものを考えていかなければならないと思います。


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院長 森岡 明

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